英ポンドが最安値更新、英国金融市場で何が起きているのか?

英国の法定通貨であるポンドが対米ドルに対して、一時1ポンド1ドル水準まで安値を更新し、英国の金融市場で動揺が広がっています。その背景として英国の財政悪化懸念にあります。今回は英国金融市場で何が起きているのか詳しく解説します。
英ポンド対米ドルで1ポンド1ドルと過去最安値を更新

英国の法定通貨であるポンドが2022年9月26日に対米ドルに対して1ポンド1ドル台と過去最安値を更新しました。これは1985年依頼の最安値水準となっています。
26日の為替相場は、対ドル相場は1ポンド=1.07ドル台後半からわずか20分程度で一時1.03ドル台まで下げ、1ポンド1ドル台のパリティ(等価)を視野に入れる水準まで下落しています。
また、これに合わせて英国債の売りも広がり、2年物の利回りは前週末に比べ、一時0.6%近くまで上昇(債券価格は下落)し4.5%台後半と、2008年9月以来の高さを記録しました。
その背景としては、後に詳しく記載していますが、2022年9月に発足したばかりのトラス政権が減税を主とした経済政策を打ち出したことにあります。
英トラス政権が減税と国債増発を打ち出す
英ポンドが対米ドルで1ポンド1ドル台を記録した背景としては、英トラス政権により経済政策として約50年ぶりの減税と国債の増発を発表したことにあります。
具体的な内容としては、2023年4月に予定していた法人税率の19%から25%への引き上げの凍結、国民保険料の引き下げとなります。この政策により450億ポンドの減税規模となるとされています。また、直近での対応として、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー価格が上昇している状況であることから、エネルギー対策に600億ポンドを投じ、家計や企業の光熱費負担に上限を設けることで、それを超過した部分については英国政府が肩代わりするという内容です。
これらの資金を捻出するため、英国政府は国債を発行し、その発行額は624億ポンド引き上げるとしたことから、市場関係者の間では一気に、財政不安への懸念が広まっていったというわけです。
英でインフレ悪化懸念、英中銀は金融引締継続

英国の中央銀行であるイングランド銀行は、2022年9月22日に0.5%の利上げを発表したばかりで、物価上昇を抑えるために利上げを継続する方針ではありますが、この同等のタイミングで財政不安への懸念が広まっている状況にあります。
これを受けて、イングランド銀行は2022年9月28日に市場介入に踏み切り、英国債を一時的に買い入れることで、市場の安定化を図る狙いがあります。
この市場介入により、英国債の国債利回りは1%程低下し、英ポンドの下落も落ち着きを取り戻しつつあります。
英財務相が減税政策の一部を撤回
トラス政権が発表した減税策のうち、一部について英国の財務相であるクワーテング氏は、高所得者向けの所得税の減税を撤回する方針を2022年10月3日に明らかにしました。
撤回するのは、年収15万ポンドを超える部分にかかる所得税率を45%から40%に引き下げる計画の部分についてで、一部ではお金持ち優遇との批判を受けていることから、撤回に踏み切りました。
しかしながら、撤回部分の財政負担額は数十億ポンド程度であり、合計での減税額450億ポンドのうち、ほんの僅かな金額であります。
これを受けて、英ポンド対米ドルで1.12ドル台で徐々に回復してはいますが、市場の懸念は払拭することができるのかは、11月発表予定のの財政再建計画の具体策にかかっていると言えそうです。